大阪地方裁判所 平成10年(ワ)8358号 判決
原告 福森重孝
右訴訟代理人弁護士 伊藤馨
同 村本武志
被告 株式会社東京三菱銀行
右代表者代表取締役 岸曉
被告 荒正英
右両名訴訟代理人弁護士 露木脩二
同 鈴木達郎
被告 明治生命保険相互会社
右代表者代表取締役 金子亮太郎
被告 新谷賢三
右両名訴訟代理人弁護士 井上隆晴
同 細見孝二
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して一億一〇三四万七五八五円及びこれに対する平成一〇年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告株式会社東京三菱銀行は原告に対し二二六万七五〇五円及びこれに対する平成一〇年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は第一、第二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告に対し、連帯して三億七一四三万五五七〇円及びこれに対する平成一〇年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告は、被告株式会社東京三菱銀行に対し、別紙金銭消費貸借契約目録記載の各金銭消費貸借契約に基づく七億五〇〇万円の債務を負担していないことを確認する。
三 被告株式会社東京三菱銀行は、原告に対し、七五五万八三五二円及びこれに対する平成一〇年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、原告が、被告株式会社東京三菱銀行(以下「被告銀行」という。)の従業員である被告荒正英(以下「被告荒」という。)及び被告明治生命保険相互会社(以下「被告保険会社」という。)の代理店の従業員であった被告新谷賢三(以下「被告新谷」という。)から、いわゆる相続税対策として有効な商品であるとの触れ込みで融資一体型変額保険の勧誘を受け、右両名の一連の違法な勧誘によって融資一体型変額保険が相続税対策に極めて有効な商品であるとの錯誤に陥り、被告保険会社との間では変額保険契約を、被告銀行との間では、右変額保険の保険料の原資等に充てるための別紙金銭消費貸借契約目録一ないし六記載の金銭消費貸借契約(以下「本件各金銭消費貸借契約」という。)をそれぞれ締結するに至ったと主張し、被告らに対し、以下の請求をした事案である。
1 請求一項
被告らに対し三億七一四三万五五七〇円(ただし、被告保険会社にあっては、右請求金額のうち既払保険料から解約返戻金を控除した額一億五八〇三万四二六二円については、主位的に右変額保険契約が錯誤により無効となることによって生じる不当利得返還請求として、予備的には被告荒及び被告新谷の勧誘が共同不法行為を構成することによって生じる損害にあたるとした上、民法七一五条に基づく損害賠償として、その余の請求額については、民法七一五条に基づく損害賠償として、被告銀行にあっては、民法七一五条に基づく損害賠償として、被告荒及び被告新谷にあっては、民法七〇九条に基づく損害賠償として)及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成一〇年九月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
2 請求二項
被告銀行に対して、本件金銭消費貸借契約が錯誤により無効であるとして、それらにつき、残債務として被告銀行が主張する七億五〇〇万円の債務を負担しないことの確認を求めた。
3 請求三項
被告銀行に対し、原告が被告銀行と本件各金銭消費貸借契約を締結する際、ダイヤモンド信用保証株式会社(以下「ダイヤモンド信用保証」という。)に支払った保証委託料相当額七一九万八四三〇円ほか合計七五五万八三五二円が、被告荒及び同新谷の前記1の不法行為に基づく損害であるとして、民法七一五条に基づき、右金員及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成一〇年九月三〇日から民法所定の年五分の割合による金員の支払を求めた。
二 争いがない事実等
1 当事者
(一) 原告は、大正六年七月一八日生まれであり、平成元年一二月当時は七二歳で、駐車場、コンビニエンス業を目的とする株式会社久栄(以下「久栄」という。)の代表取締役の地位にあった(争いがない)。
(二) 被告銀行は、金融を業とする株式会社であり、被告保険会社は、生命保険を業とする相互会社である(弁論の全趣旨)。
被告荒は、平成元年当時、被告銀行船場支店(以下「船場支店」という。)で第二貸付課長を務めていた者であり、被告新谷は、昭和六二年ころ、変額保険販売の資格を取得し、平成元年当時は、被告保険会社の代理店である株式会社明治生命大阪保険代理社大阪北営業部に勤務し、被告保険会社の指揮監督の下生命保険の募集に従事していた者である(争いがない)。
2 変額保険契約の締結
原告は、平成元年一二月末ころ、被告保険会社との間で、被保険者を原告及びその妻、長男、次男として、別紙保険契約一覧表1記載のとおり、変額保険契約(以下、併せて「本件保険契約」という。)を締結し(契約日はいずれも平成二年一月一日)、一時払保険料として、合計四億六〇二四万七〇〇〇円を支払った(争いがない。)。
3 金銭消費貸借契約の締結等
(一) 原告は、平成元年一二月二八日、被告銀行との間で、前記2の保険料支払のために五億円を、その利息支払のために三五〇〇万円を各借り入れた(別紙金銭消費貸借契約目録一、二)(争いがない。)。
(二) 原告は、別紙金銭消費貸借契約目録三ないし六記載のとおり、右消費貸借契約の利息支払名目で被告銀行から合計一億七〇〇〇万円の借入を行い、平成九年四月二四日までに、合計二億四四七万六六六七円の利息を支払った(弁論の全趣旨)。
4 保証委託契約の締結
原告は、別紙金銭消費貸借契約目録一、二記載の各債務の保証を目的として、ダイヤモンド信用保証との間で、別紙保証委託契約目録記載の保証委託契約(以下「本件保証契約」という。)を締結し、支払保証料として合計七一九万八四三〇円を支払った(争いがない。)。
5 変額保険について
変額保険は、昭和六〇年、「最近の国民の金利選好の高まりや、高齢化の進展による生存保障ニーズの増大を背景として、変額保険へのニーズが高まっている」との保険審議会の答申を受けて、大蔵省当局及び生命保険業界における各種検討及び法令、通達、業界の運用指針・体制等の整備が進められた上で、昭和六一年七月に商品認可され、同年一〇月からその販売が開始された。
変額保険は、保険加入者の払込保険料から保険手数料及び死亡保険金支払のための危険保険料等を除いた一定額を特別勘定に繰り入れて、主に株式や債券などの有価証券に投資し、その運用実績に従って保険金及び解約返戻金が増減するところに特徴がある。すなわち、変額保険においては、一般勘定と区別された変額保険資産に関する特別勘定が設定され、この特別勘定資産における利益又は損失が直接保険給付額に反映される。保険金額は、保険契約によってあらかじめ定められる基本保険金額と運用実績に応じた変動保険金額から成り、死亡保険金額(及び高度障害保険金額)については右基本保険金額が保証される(運用実績により変動保険金額の加算もある。)が、満期保険金及び解約返戻金はもっぱら運用実績に基づいて決定されるため、金額の保障はなく、ハイリスクハイリターンの商品であり、このうち、本件保険契約のように、保険金の支払を自己資金によることなく、銀行からの融資によることが当初から予定された形のものを、融資一体型変額保険ということがある(甲二三号証、弁論の全趣旨)。
6 解約等
原告は、被告保険会社との間で、別紙保険契約一覧表2記載のとおり、本件保険契約を解約し、解約返戻金として三億二二一万二七三八円を受領した(争いがない。)。
三 争点
1 原告が、本件保険契約及び本件各金銭消費貸借契約を締結した際、融資一体型変額保険は相続税対策として有効で、自己資産を取り崩すことなく相続税が支払える上、余剰が出るとの錯誤があったか(錯誤無効の有無)。
2 被告新谷及び同荒が行った一連の本件勧誘は、適合原則に違反する違法なものであったのか否か、また、本件勧誘時になされた説明内容は、断定的判断を提供するなど、右被告らに課された説明義務に違反するものであったのか否か(被告新谷及び同荒の勧誘の違法性の有無)。
3 損害額
四 争点についての当事者の主張
(原告の主張)
1 本件保険契約及び本件各金銭消費貸借契約締結に至る経緯
(一) 原告は、平成元年秋ころ、久栄の融資先であった船場支店から相続税対策セミナー開催の案内を受け、同セミナーに参加した。
その数日後、原告は、船場支店の被告荒から、電話で、「相続税対策についていい商品があるから是非説明したい。」との勧誘を受けた。
(二) 右勧誘を受けて、原告が、船場支店に赴いたところ、被告荒は、原告を応接室に案内し、そこで、「日経MONEY」という雑誌を渡した。被告荒は、日経MONEYの「納税資金の確保には生命保険、損害保険が強い味方になる」との表題の下、相続税対策として生命保険が有効である旨の記載のある頁を示しながら、「生前から相続税については考えておかねばならない。相続税については、最近出たいい保険がある。」等と申し向け、変額保険への加入を勧めた。その後、被告荒は、あらかじめ連絡を入れていた被告新谷を、応接室に入れ、原告に引き合わせた。
(三) その後も、原告は、変額保険の説明を受けるために、被告銀行船場支店に数回赴いた。
船場支店での打ち合わせには、常に、被告新谷だけでなく被告荒も同席しており、右被告らは、原告に対し、「あなたが所有する土地が値上がりすれば相続税はより上昇する。今のうちに相続税対策を取っておかないと大変なことになる。」等と不安感を植え付けた上、いずれも、変額保険運用利率九パーセント、金利六・二パーセントを内容としたシミュレーション(銀行借入利用一時払終身保険による相続税資金シミュレーションと題するもの二枚〔甲三、四号証〕)を示しながら、「変額保険は、相続税対策として非常に有効である。」「この保険の支払保険料は、全て銀行が面倒を見る。」「借入によって、相続資産が減少するし、運用利率は九パーセントで、借入利率が六・二パーセントで、三パーセントの差額が出る。金利を支払っても、その差額が利益として残る。」「支払金利分も銀行が融資する。ペイフリーである。それで、資産を一切取り崩すことなく、相続税を十分払えるし、それ以上に、四〇〇万円ないし五〇〇万円程度残る。」「途中で解約して、借入金の金利を支払うことになっても、三パーセントの差額が利益として残る。」等と、運用利率は常に九パーセントが保証されている旨強調しながら説明を行い、殊に、融資と一体となった変額保険が相続税対策としていかに手堅く、有利な商品であるかを強調した。
(四) 平成元年の末ころに至り、被告新谷は、「年が明けたら、年齢が上がり、保険料が高くなる。今のうちに早く契約した方が得だ。」等と、原告に対し、変額保険の締結を迫った。原告は、利払分の融資限度額、融資期間等について具体的な説明を受けていなかったが、大手銀行の融資課長であった被告荒が、融資の面倒を一切見てくれると約束した上に、変額保険が前記のとおり運用利率が九パーセント以上であり、相続税対策として有利な商品であることを保証していたので、本件各保険契約及び本件各金銭消費貸借契約を締結するに至った。
2 融資一体型変額保険の特徴
変額保険は、前記のとおり、特別勘定における投資方針、運用方法が一任されるとの投資信託同様のリスクに加え、対象者が特定少数である特定金銭預託の単独運用に分類されるものであるために、一般勘定に比して資金規模が小さく、その分投資リスクも必然的に大きくなるという特徴を一般的に有している。
さらに、本件では、相続税対策の目的を押し進めたいわゆる融資一体型変額保険契約、具体的には、被告銀行から支払保険料等の借入を行い、被相続人である原告の債務を増加させた上、(1) 被相続人である原告自身を契約者兼被保険者として、死亡保険金を借入金返済及び相続税納税資金に充てる方式(納税資金準備型)と、(2) 被相続人である原告自身を契約者、相続人を被保険者として、相続税評価の対象となる資産を一時払保険料額にとどめる一方、解約返戻金を借入金返済及び相続税納税資金に充てる方式(財産評価引き下げ型)の各変額保険契約が締結されている。
右融資一体型変額保険契約は、<1>保険事故発生時までは現実に借入金の返済をせず、借入金の金利支払のために新たな借入が行われる複利の仕組みになっており、資産負担額が増加する場合が多く、保険料の(必要経費、特別運用勘定繰入率〔約九〇パーセント程度に相当する。〕が考慮された総合的な)利廻が、借入利率を上回わっている場合でなければ、却って、契約者に新たな借入金負担を強いることになること、かつ、<2>後者の財産評価引き下げ型については、解約返戻金が支払保険料を上回っていなければ、却って、相続税の資産評価上不利となり、相続税を引き上げることになるが、他方、仮に、解約返戻金が支払保険料を上回った場合であっても、現実に解約する場合に賦課される所得税、住民税が解約返戻金と支払保険料の差額を下回っていなければならない等、相続税対策といっても、極めて限局的な場合にしか有効となり得ず、契約者は、融資一体型変額保険を締結することによって、それを締結しない場合以上の資金負担のリスクを強いられる場合が生じるのである。要するに、右融資一体型の変額保険は、相続税対策の有効性に多分に疑問がある上、従来型の変額保険以上にリスク判断に困難が伴う特殊な形態の変額保険といえるのである。
3 錯誤無効(争点1)
原告が、本件保険契約及び本件各金銭消費貸借契約を締結した動機は、右保険契約の運用が、常に、利率九パーセント以上でなされるため、自己の資産を取り崩すことなく、死亡保険金ないし解約返戻金で相続税及び借入金元利の支払ができる上、さらに四〇〇万円ないし五〇〇万円の余剰が出て、相続税対策として極めて有効な保険である旨誤信していたためである。
しかるに、本件保険契約の運用利率は、常に九パーセント以上で運用されるものではないばかりか、前記のとおり、相続税対策として有効となる場合は、極めて限定されたものであった。
そして、前記のような相続税対策という目的は、本件保険契約及び本件各金銭消費貸借契約の要素であったのだから、原告の前記の誤信は、要素の錯誤に当たるというべきである。仮に、要素の錯誤に当たらないとしても、右錯誤は動機の錯誤であって、その動機は、本件保険契約、本件各金銭消費貸借契約を相続税対策として有効であると勧誘した被告新谷、被告荒らに表示されていたというべきであるから、いずれにせよ、錯誤により無効であるというべきである。
4 被告新谷及び被告荒の勧誘の違法性(争点2)
(一) 適合原則違反
原告は、本件保険契約締結当時、七二歳を超えており、融資一体型変額保険契約の仕組みやリスクを適正に理解するだけの判断力を有していなかった。のみならず、当時、原告が経営する久栄が、役員保険の利払すらままならないような債務超過の状況であったことをも考えあわせれば、原告は、融資一体型変額保険契約を締結するだけの適合性を欠いていたというべきである。それ故、原告に本件保険契約を勧誘した被告らの行為は、適合原則に反する。
(二) 説明義務違反、断定的判断の提供
(1) 規制法令等
前記のような変額保険のリスクにかんがみ、大蔵省当局及び社団法人生命保険協会は、変額保険の募集の運用に関し、次のような指針等を定め、これを業界に周知している。
<1> 生保協会は、保険審議会の「変額保険の募集にあたっては、顧客に対し変額保険の仕組みを、契約者が資産運用のリスクを負担し保険金額が減収する可能性があることを含め十分に説明する必要がある。・・・変額保険募集のための特別の資格認定制度の創設および変額保険の募集知識や募集方法についての教育体制を整備することが適当である。」旨の答申に基づき、変額保険の募集にあたる者につき、自主運営制度として「変額保険販売資格制度」を設け、変額保険の販売資格試験への合格と所属会社を通じての生保協会への登録をその資格要件とした。
また、生保協会は、変額保険販売資格用のテキストにおいて、変額保険の販売に際して販売者が行うべき情報提供として、(1) 保険金額の増減と基本保険金額(最低保証額)、(2) 特別勘定の資産運用方針、(3) モデルに基づく試算例、(4) 解約返戻金額及び満期保険金額の非保証を、さらに、募集上の禁止事項として、(1) 将来の運用成果についての断定的判断の提供、(2) 特定会社との比較、特定期間を取り上げての比較、(3) 保険金額、解約返戻金の保証、(4) 登録を受けていない私製資料の使用をそれぞれ掲げている。
<2> 大蔵省は、契約者保護及び募集秩序維持の観点から、右資格制度の厳正、円滑な運営が必要不可欠であるとの認識を示すとともに、変額保険の募集にあたっての、<1>将来の運用実績についての断定的判断を提供する行為、<2>特別勘定運用成績について、募集人が恣意に過去の特定期間を取り上げ、それによって将来を予測する行為、<3>保険金額(死亡保険金の場合には最低保障を上回る金額)あるいは解約返戻金を保証する行為を禁止する通達(昭和六一年七月一〇日付蔵銀第一九三三号「変額保険募集上の留意事項について」)を発した上、変額保険販売に当たり留意すべき事項として、<1>満期保険金額及び解約返戻金額が運用実績と異なることを、運用実績〇パーセント、四・五パーセント、九パーセントの三とおりの試算例で説明すること、<2>保険会社が作成し登録した所定の資料以外の資料を使って(新聞、雑誌等の記事をそのまま使うことを含む。)募集してはならない旨指摘している。
(2) 被告新谷の説明義務違反、断定的判断の提供
被告新谷は、変額保険を扱う資格者として、変額保険契約のリスクや、一般投資家と勧誘者との知識、情報収集能力の差異を埋めるべく、保険募集の取締に関する法律(以下「募取法」という。)や、通達、自主規制に則り、資産運用リスクは、契約者が負担すること、解約返戻金については、最低保証がないことを説明することは当然のこととして、原告の理解力に照らしながら、殊に、融資一体型契約にあっては、前記のような相続税対策としての有効性や融資一体型変額保険契約特有のリスクがあることをも具体的に説明する義務を信義則上負っているというべきである。
しかるに、被告新谷は、生保協会の自主規制で禁ずるところの、運用利率九パーセントとした私製のシミュレーションのみを用いて、運用利率は九パーセントを下回ることはない旨断定的な判断を提供し、「銀行金利は六パーセントだが、この保険は九パーセントで運用される。借入金の金利を払ってもその差額が利益として残る。それで、相続税は十分払えるし、それ以上に四〇〇万円ないし五〇〇万円程度残る。」等と断定的判断を提供し、最低限の説明義務を尽くすことすら怠った。
(3) 被告荒の説明義務違反、断定的判断の提供
被告荒は、自己の顧客確保のために、変額保険を利用しようとの意図で、能動的に融資対象案件である本件保険契約を持ち込み、その契約に密接に関わっていたのである。確かに、建前としては金銭消費貸借と保険契約が別個独立のものであるとしても、かかる場合には、銀行担当者である被告荒には、信義則上、被告新谷と同様に変額保険、融資一体型変額保険のリスクを説明すべき義務を負っているというべきである。
しかるに、被告荒は、運用利率は九パーセントを下回ることはない旨断定的な判断を提供し、「銀行金利は六パーセントだが、この保険は九パーセントで運用される。借入金の金利を払ってもその差額が利益として残る。それで、相続税は十分払えるし、それ以上に四〇〇万円ないし五〇〇万円程度残る。」等と申し向け、十分なリスク説明を尽くさなかった。
5 損害額等(争点3)
原告が本件保険契約及び本件各金銭消費貸借契約を締結したことによって被った損害は以下のとおりである。
(一) 被告銀行、被告保険会社、被告新谷及び被告荒への請求分
(1) 一億五八〇三万四二六二円
(支払保険料から解約返戻金を控除した額)
なお、被告保険会社については、右金額相当分は、本件保険契約が錯誤により無効となることによって被告保険会社に生じる不当利得ともなる。
(2) 二億〇二四三万七五七円
(既払利息分)
(3) 一二万円
(本件消費貸借契約書作成のための印紙代)
(4) 一〇八五万〇五五一円
(弁護士費用-請求額の三パーセント)
(二) 被告銀行のみへの請求分
(1) 七一九万八四三〇円
(別紙保証委託契約目録記載の各借入の際の借入保証料)
(2) 三五万九九二二円
(弁護士費用-請求額の五パーセント)
(被告保険会社及び被告新谷の主張)
1 勧誘の経緯について
被告新谷は、原告に対し、変額保険の基本的な仕組みについて、運用利率九パーセント、四・五パーセント、〇パーセントの場合の解約返戻金、死亡保険金がそれぞれ記載されたパンフレットや設計書あるいは契約のしおりを用いて、<1>変額保険は、保険料を特別勘定を設けて株式等に運用するものであり、いわば保険の投資信託であって、運用実績により保険金及び解約返戻金が変動し、ハイリスクハイリターンの商品であること、<2>しかしながら、死亡保険金は運用実績いかんを問わず保証されるものであることを説明し、さらに、融資一体型変額保険契約の相続税対策の効果については、何枚もシミュレーションを作成した上、その基本的な仕組みを説明した。
原告は、勧誘当時、久栄の代表取締役の地位を務めていたことや、従前から株取引経験が相当豊富であったこともあって、変額保険ないし融資一体型変額保険の仕組みやそのリスクについて、被告新谷の説明を十分理解していたのである。また、原告は、融資一体型変額保険契約のリスクを理解していたからこそ、変額保険契約締結後、運用実績がマイナスに落ち込み、その旨の記載のある「契約内容のお知らせ」が送付されても、長年にわたってなんら被告保険会社にクレームをつけることなく契約を継続させていたのである。
2 錯誤無効について(争点1)
原告は、そのリスクを十分理解した上で、本件保険契約ないし本件各金銭消費貸借契約を締結するに至ったものであるから、本件保険契約ないし本件各金銭消費貸借契約が錯誤無効であるとの主張は失当である。
3 勧誘時の違法性について(争点2)
(一) 前記のような原告の属性にかんがみると、原告は変額保険への適合性を欠いていたわけでもないことは明らかである。さらに、被告新谷は、運用利率が必ず九パーセントを上回るとの断定的な判断を提供したものでもなければ、常に運用利率が金利を上回る旨説明したものでもなく、前記のような十分なリスク説明を行ったのである。
(二) なお、原告は、融資一体型変額保険契約の場合の説明内容は、相続税対策の有効性や、その特有のリスクについて具体的に言及したものでなければならない旨主張する。しかしながら、そもそも、いかなる場合に相続税対策として有効となるかを具体的に示すためには、将来の相続時における相続税額や、将来賦課される所得税、住民税、あるいは、将来にわたる金利や資産上昇率、あるいは運用利率等、不確定な算定要素を考慮に入れなければならず、具体的にこれを算定することは不可能というほかない。また、そもそも、変額保険の損益が保険料の運用状況に左右されるものであることについての説明を受けておれば、運用益が融資の支払利息を超えない限り損失を被ることも容易に理解できるのであって、結局のところ、当該変額保険契約が融資一体型であるか否かによって勧誘者の尽くすべき説明義務の内容が変わるとする原告の主張は失当である。
(被告銀行及び被告荒の主張)
1 錯誤無効について(争点1)
本件保険契約と本件各金銭消費貸借契約は、確かに関連はしているが、別個独立の契約であるから、両者を一体として錯誤を論じる原告の主張は、失当というほかない。
さらに、原告はその属性からみても、被告新谷の説明によって、変額保険ないし融資一体型の変額保険のリスクを十分理解していたというべきであって、この観点からも錯誤の主張は失当である。
2 勧誘時の違法性について(争点2)
前記のとおり、本件保険契約と本件各金銭消費貸借契約とは別個独立の契約なのであるから、そもそも、変額保険のリスク説明は、保険会社担当者であった被告新谷が行うべきものであって、銀行担当者にすぎなかった被告荒はなんらの説明義務を負うものでもない。確かに、被告荒は、原告に対して、被告新谷を紹介したが、そもそも、被告荒は、相続税対策としては建物の建て替えの方がよい旨忠告していたのにもかかわらず、原告の懇請を受けて被告新谷を紹介したにすぎないのであって、相続税対策として融資一体型変額保険が有利であるとして積極的に勧誘したものでもないし、また、変額保険契約の勧誘にもほとんど立ち会っていないのである。却って、原告が変額保険契約を締結することに前向きになっていた時にも、変額保険は元本割れのリスクがあるから、慎重に考慮の上、判断してもらいたい等と助言していたのである。
第三争点に対する判断
一 認定した事実
1 平成元年秋ころの資産状況等
原告は、戦後間もなく、毛糸洋品店の営業を始め、昭和三〇年代後半からは自己が所有する大阪市中央区久太郎町の敷地上に「いこいモータープール」の名称で駐車場を経営し、後に法人化して久栄を設立した。その後駐車場の経営は止め、昭和五〇年代に右敷地にコンビニエンスストアー形式の店舗を開き、現在に至る。原告と被告銀行船場支店(以下「船場支店」という。)とは、久栄を法人化する以前である昭和五〇年ころから、取引関係にあったが、それほど大きな取引ではなかった(甲一九号証、丙一号証、被告荒本人、原告本人)。
原告が、平成元年当時有する固定資産としては、久栄が営業するコンビニエンスストアーの敷地並びに名張市の自宅及び店舗二軒があり、当時の評価として、合計三〇億円程度のものであった(丙一、三号証、被告荒本人)。
2 原告が本件保険契約締結への交渉を持つ端緒
船場支店では、当時、付近の中小企業の社長向けに相続税対策セミナー(資産継承セミナー)を年二回程度開催しており、原告は、平成元年秋ころ、右セミナーに勧誘され、これに出席した(甲一九号証、丙一号証、被告荒本人、原告本人)。同セミナーでは、相続税対策に有効な商品として、不動産投資、役員保険等が挙げられていたが、そのうちの一つとして、当時、話題となっていた変額保険も取り上げられていた(丙一号証、被告荒本人)。
右セミナーの後、船場支店の第二貸付課長であった被告荒は、新規融資獲得に乗り出し、セミナー実施後に行ったアンケート結果をもとに、少しでも興味のあるように見えた客に対して、個別に連絡を取っていたが、一〇月ころ、その一人であった原告に対しても、相続税対策についてよい商品があるから個別に説明したい旨連絡をした(丙一号証、被告荒本人、原告本人)。
他方、被告荒は、かねてから、変額保険の仕組みについて、自分なりに勉強していたところ(被告荒本人)、船場支店に日頃から出入りしていた被告保険会社代理店の担当者である被告新谷に対し、「相続税対策に関心を持っている社長さんがいるから来てほしい。」等として保険の顧客として原告を引き合わせたい旨の連絡を入れた(甲二四号証の1〔一三ないし一四ページ〕、乙一一号証、被告新谷本人)。
3 原告と被告新谷らとの最初の打ち合わせ
被告荒は、同人からの誘いを受けて平成元年一〇月末ころ船場支店に赴いた原告に対し、「今のうちから相続税対策は考えておかねばならない。」「相続税対策には、変額保険が有効である。」等と、変額保険に加入することを勧めた上、その担当者として被告新谷を紹介した。
被告新谷は、被告荒を通じるなどして、相続税対策として生命保険の有利性を説く記事の掲載された「マネージャパン」という雑誌(甲一号証)や変額保険のパンフレット(乙一号証)を原告に交付して、変額保険の基本的な仕組みを説明した後、被告荒及び原告から、原告の資産としては、久栄の敷地、名張市の自宅及び店舗二軒があり、その評価額は約三〇億円であり、相続税はこのままでは一〇億円程度かかる見込みであること、その他、原告の家族構成や、その生年月日等、変額保険契約締結に必要な基本的事項について説明を受けた(甲一九号証、乙一一号証、被告新谷本人、原告本人)。
4 その後の交渉態様等
その後、本件保険契約が締結される一二月末まで、変額保険に関する打ち合わせが、船場支店において五、六回程度、久栄又は原告の実家である名張市において二、三回程度行われた。船場支店で行われた打ち合わせには、原告、被告新谷に加えて被告荒も同席し、また、これらの打ち合わせとは別に、被告新谷と被告荒は、船場支店の被告荒のデスクで今後の原告との交渉方針について検討することもあった(甲二四号証の1〔二〇ページ〕、乙一一号証、被告新谷本人)。
5 融資一体型変額保険の特徴
本件保険契約は、いわゆる融資一体型変額保険であるところ(争いのない事実等5)、これは、以下のような特徴を有している(甲二三号証、乙一、二号証)。
(一) 本件に即していえば、前記3のとおり、原告が約三〇億円の資産を有していることから、これを担保に被告銀行から一時払保険金の原資となる融資を受け、さらに、それに対する利息も、被告銀行から追加融資を受けることによって賄う。これによって、原告は、自己資金なしに巨額の保険金の払込みが可能になるとともに、借入債務によって相続財産の評価を下げることができる。
(二) 一方、変額保険は、払込金の限度で資産として評価されるにもかかわらず、死亡保険金は一定額が保証されるため、原告を被保険者とする保険契約にあっては、原告の相続が発生した場合、保証される死亡保険金が支払われ、これを、相続税の原資とすることができる。
(三) さらに、株式等への投資によって運用される特別勘定の利廻次第では、保証された死亡保険金に加えて、変動保険金が上乗せされるため、さらに大きな保険金の支払が期待できる。
(四) また、死亡保険金が発生する以前に解約しても、特別勘定の利廻がよければ、解約返戻金として、当初の払込保険料を上回る金額が支払われるため、原告以外に原告の妻子を被保険者として保険契約を締結し、これを、原告の相続が発生した後に解約すれば、特別勘定の利廻いかんによっては、さらに一時払の保険料を上回る金額が支払われ、相続税を支払っても、なお、余剰が残ることを期待できる。
(五) しかし、特別勘定の利廻は不確定であることに加えて、右運用利率から毎年必要経費等が控除され、それが借入利率を上回る保証もないばかりか、却ってマイナス利廻となることもあることから、保険契約が解約によって終了する場合には、解約返戻金はなく、借入の負債のみが残る危険があり(以下「問題点1」という。)、さらに、被保険者が死亡した場合でも、その死亡時期や担保となっている資産の評価が不確定であることから、たとえ死亡しても、死亡保険金のみでは借入負債に満たない状況が生じるおそれがある(以下「問題点2」という。)。さらに、当初提供していた担保のみでは、被保険者が死亡するまでの利払に対する新たな融資が得られず、そのため、新たに担保を提供した上で借入をする必要が生じ、それに対応できない場合は、解約することになるが、その場合も、解約返戻金が当初の借入元本に満たないという事態が生じる(以下「問題点3」という。)ことがある。
6 被告新谷の行った具体的説明内容と被告荒の関与
被告新谷は、昭和六二年ころ、変額保険販売の資格を取得し(争いのない事実1)、変額保険の勧誘をした経験はあったものの、融資一体型変額保険契約も、一時払保険料が本件のように比較的巨額となる契約を勧誘するのも共に初めてであったが(被告新谷本人)、被告荒からの前記依頼を受け、原告に対し、本件保険契約に係る変額保険の内容につき、以下のような説明を行った。
(一) 被告新谷は、平成元年一〇月末ころ、被告荒から原告を最初に紹介された際、被告保険会社が発行していたパンフレット(乙一号証)及び土地を二億円と想定した一般説明用のシミュレーション(銀行借入利用一時払終身保険による相続税納税資金シミュレーションと題するもの〔甲三号証〕)を原告に示しながら、変額保険の死亡保険金や解約返戻金は相続発生時の相続税支払原資に充てられるから自己の資産を取り崩すことなく相続税が支払える、保険料支払のために融資を受ける場合には、相続財産を引き下げることになって、さらに有利である等と相続税対策としての融資一体型変額保険契約の有効性について簡単な説明を加えた(乙一一号証、被告新谷本人)。
(二) その後、被告新谷は、本件保険契約締結に至る同年一二月一八日までの間、原告に対し、融資一体型変額保険の仕組みとして、死亡保険金ないし解約返戻金がそれぞれ相続税の原資となること、支払保険料を被告銀行の融資によって賄えば、借入分が相続資産を引き下げる上、被保険者を原告の家族とした場合は、相続時の資産評価額が支払保険料額にとどまるというメリットがあること、他方、変額保険のリスクとしては、それが旧来の保険と違って株式や国債を中心に運用がなされ、いわば投資信託みたいなものであること、死亡保険金は最低限保証されるが、ハイリスクハイリターンな商品であること等を口頭で説明し(甲二四号証の1、乙二、一一号証、被告新谷本人)、原告に対し、前記5、(一)ないし(四)に記載したような、融資一体型変額保険の相続税対策としての有効性を強調した。
なお、甲五号証(「相続税対策のための不動産担保ローンと一時払終身保険のセットプラン」と題する書面)は、被告新谷が本件保険契約締結後に、原告に対して融資一体型変額保険の説明資料の一部として交付された書面であって、右書面には前記認定のとおり融資一体型変額保険によって、自己資金の負担なしで相続税の節税がはかれる旨の記載がなされている。このことからしても、本件においても、原告に対して自己資金の負担なしで相続税の節税がはかれる旨を強調した勧誘がなされたことがうかがえる(甲五号証、被告新谷本人)。
(三) 被告新谷としては、このような保険の場合、保険料を大きくして相続税対策のメリットを大きくできる反面、銀行とのタイアップがなければ、個人にはとても勧めることができない案件であると認識していたが(被告新谷本人〔平成一二年二月四日〕)、被告荒が五億でも一〇億でも融資する態勢にあると言っていたため、その後の原告との交渉も安心して進めることができた(被告新谷本人〔平成一二年三月一日<七、八ページ>〕)。
(四) また、被告新谷は、勧誘に際して、原告に対し、土地ないし金融資産、借入利率、運用利率を設定した上で、現行の相続税算定方法に則って、現状のままの場合と、融資一体型変額保険契約プラン実施後におけるそれぞれの相続税、資金収入(プラス効果)との比較対照を示したシミュレーション(甲二ないし四号証等)を作成、交付した。このうち、右甲二ないし四号証は、運用利率を九パーセントと想定したものであるが、それ以外にも、被告新谷は、原告に対し、少なくとも運用利率を四・五パーセントと想定したシミュレーションも交付しており、また、これらのシミュレーションに加え、特別勘定の運用利率を九パーセント、四・五パーセント、〇パーセントと想定して、各々三年後、五年後、一〇年後、それ以降の解約返戻金、死亡保険金の推移の数値が示され、かつ、太字で「実際のお受取金額は、運用実績および配当実績により変動(増減)しますので、将来のお支払額をお約束するものではありません。」旨の注意書きが記載された一般的なパンフレット、設計書(乙一、乙二号証)をも原告に交付していた(被告新谷本人)。
なお、原告は、被告新谷からは特別勘定の運用利率が九パーセント以外になることもあることを示すパンフレット及び設計書は一切交付されておらず、説明の際には、運用利率が九パーセント、借入利率六・二パーセントと想定した手書きのシミュレーション二枚(甲三、四号証)しか示されなかった等と主張し、原告本人の供述もこの内容に沿うものである(原告本人〔一七ないし一八ページ等〕)。しかしながら、そもそも、原告が受け取った資料の全てであるとする右シミュレーションは、相続税の対象となる資産をそれぞれ、二億円、一〇億円と設定したものであり、被告らが当時把握していた原告の資産総額である三〇億円を必ずしも正確に反映したものではないのであって、かかる不十分かつ手書きのシミュレーションだけで、原告が合計四億六〇〇〇万円もの多額の保険料を支払わなければならない本件保険契約を締結するに至ったということ自体、不自然というほかない。加えて、そもそも、右パンフレットや設計書は、被告保険会社の業務の流れの中で、保険の勧誘の際の決まり切った手順に従い機械的に交付されるものであるとの事情をも併せかんがみると、原告の右供述は不自然であって、信用できない。
(五) 被告新谷が示した特別勘定の想定運用利率九パーセントは、平成元年における被告保険会社の特別勘定運用実績である九ないし一〇パーセント(乙一六号証)にほぼ沿ったものであったが、被告新谷が、右運用利率を提示したのは、被告保険会社の特別勘定の運用利率を知っていたからではなく、借入利息を六・二パーセントにしたことも含めて、単に被告新谷の個人的な想定にすぎず、被告新谷自身、さほど根拠があって算出した数字ではないと自認している(被告新谷本人〔平成一二年三月一日<六ページ>〕)。
(六) ところで、前記(四)のとおり、被告新谷は、原告に対し、運用利率を四・五パーセントにしたシミュレーションをも提示している。しかし、これは、前記4のとおり、船場支店において被告荒との間で行われた打ち合わせの際に、被告荒が被告新谷に対し、度々、シミュレーションの前提となる運用利率、借入利率を示しながら、それに対応した具体的なシミュレーションの作成やその差し入れを指示し、最終的に、「話をスムーズに進めるためには余り無理な計算はいかんな」、「余り運用利率を高く見積もらないでほしい、銀行の貸出の金利も安くするから」などど申し向け、これを受けた被告新谷自身も、もう少し細かく利率を出した方がいいと考えたためにすぎなかった(甲二四号証の1〔一五ページ〕、丙四号証、被告新谷本人〔平成一二年二月四日<四七ないし五〇ページ>、同年三月一日<二五ページないし三〇ページ>等)。
(七) そこで、被告新谷は、当面の運用利率は九パーセント以上で推移し、かつ、仮に運用利率が九パーセントを割ることがあっても被告銀行からの借入利率を下回ることはないとの見込みの下、原告に対してシミュレーションを示して説明する際にも、運用利率がいずれも借入利率を上回り、かつ、融資一体型変額保険のプランを実行後の方が現状よりも相続税対策としてプラス効果があることを示す内容のシミュレーションのみを示していた(甲二四号証の1〔二九、三七ないし三八ページ〕、被告新谷本人〔平成一二年二月四日<四七ないし五〇ページ>、同年三月一日<二五ページないし三〇ページ>等〕)。
7 原告の認識と関心
(一) 原告は、かねてから久栄を経営してきた上、株式取引の経験もあったことから、前項(二)で示したような、保険の投資信託のようなものだとの被告新谷の説明から、解約返戻金には変動があることや、死亡保険金の金額に変動がないことについては理解を示し、被告新谷らに、「運用利率が悪くても、死亡保険金三億円は最低限保証されるのだな。」などと、何度も確認していた(甲二四号証の1〔二八ないし三二ページ〕、被告新谷本人〔平成一二年二月四日<一五ないし二二ぺージ>)。
(二) また、平成元年当時、原告には本件保険契約の保険料を自己資金で賄える資力はなく、それを銀行融資に頼らざるを得ない状況にあった上、原告の営む久栄は債務超過の状態にあり、その営業資金に対する被告銀行からの融資も欠かせない状態にあった。そのため、原告は、被告銀行が本件保険料について久栄への融資とは別に融資し、その後の利払についても融資を継続してくれるのかを一番心配し、その旨被告荒にも伝えていた。これに対し、被告荒は、保険料は被告銀行が融資し、それをダイヤモンド信用保証が保証し、その求償権のために原告の不動産を担保に差し入れてもらうが、借入金の利息についても被告銀行が面倒を見るから心配いらない等と言明し、被告荒の右回答に対し、原告は、被告荒や被告新谷に対し、「支払保険料や借入金の利息分の融資は受けられるのだな。」などと、何度も念を押していた(甲一九号証、甲二四号証の1、被告荒本人〔二九ページ〕、被告新谷本人〔平成一二年三月一日<七ないし八、一五ないし一六、二〇ページ>)。
(三) 平成元年一二月中頃になって、原告は、被告新谷から、「年が明けたら、年齢が上がり、保険料が高くなる。今のうちに早く契約した方が得だ。」等と、本件保険契約の締結を迫られる一方、被告荒からは、支払保険料分として五億円、さらに支払利息の一部として三五〇〇万円を被告銀行が融資するとの確約を受けた(甲一九号証、丙一号証、被告荒本人、原告本人)。そこで、原告は、被告荒に対し、今後の利払分の融資はどうなるのかと尋ねたところ、被告荒は、「ダイヤモンド信用保証の信用保証枠九億三〇〇〇万円のうち、四億円程度は、利払のための追加融資に充てられる。よって、当面一〇年分の融資は、大丈夫である。」旨返答したため(丙一号証、被告荒本人)、本件保険契約を締結することにし、問診のみの簡単な身体検査を受けた(原告本人)。
10 本件保険契約の締結
原告は、平成元年一二月一八日、本件保険契約を締結し、また、同月二八日、被告銀行から合計五億三五〇〇万円を借り入れ、そこから、被告保険会社に対し、保険料として、四億六〇二四万七〇〇〇円を支払った(争いのない事実等2、3)。その際、原告は、被告新谷から、「ご契約のしおり 定款・約款」の交付を受けた。この「ご契約のしおり」には、「保険の特長としくみ」の項で、それ以前に被告新谷が原告に交付したパンフレットや設計書と同様、運用利率を九パーセント、四・五パーセント、〇パーセントと想定して、各々三年後、五年後、一〇年後、それ以降の解約返戻金、死亡保険金が示されており、「実際のお受け取り額は運用実績によって変動(上下)しますので、将来のお支払い額をお約束するものではありません。」との注意書きがなされていた(甲六号証、乙三ないし七、一一号証、被告新谷本人)。
11 その後の経過
被告保険会社の変額保険特別勘定の運用利率は、平成元年末をピークとして、徐々に落ち込みはじめ、平成二年一二月末の段階では、マイナス九・九六パーセントにまで落ち込むに至った(乙一六号証)。右の落ち込みに対応する形で、原告へ毎年一回送付される「ダイナミック保険ご契約内容のお知らせ」の「この一年間の変動保険金」欄には、マイナスを示す金額が表示されていたが、原告は、被告新谷に「(運用利率が)戻ることはあるのか。」と尋ねることはあっても、運用利率がマイナスであることそれ自体については、何らのクレームも付けなかった(乙一一ないし一五号証、被告新谷本人)。
他方、被告銀行は、その後、原告に対し、借入金の利息支払のための追加融資、さらには久栄の事業のための融資をも渋るようになり、原告に対し本件消費貸借の利息支払の請求が度々なされるようになった。原告は、被告新谷を同道して被告銀行に赴き、当初と話が違うのではないかなどと掛け合い、被告新谷も原告に同調する発言をしたが、相手にされず、仕方なく、久栄の資金繰りや融資先の金利支払のために、平成三年末ころから、本件保険契約の解約返戻金を担保に被告保険会社から度々借入を行って凌いでいたが、賄いきれず、ついに本件保険契約を解約するに至った(甲六号証、甲二四号証の1〔四三ページ〕、被告新谷本人、原告本人)。
二 前項の認定事実を前提にして争点について判断する。
1 錯誤無効(争点1)について
(一) 前記認定事実5によれば、本件保険契約のような融資一体型変額保険にあっては、同5、(一)ないし(四)のような、相続税対策として有効になるメリットがある反面、同5、(五)に指摘したような問題点があり、このような問題点が生じた場合には、相続税対策にならないばかりか、却って負債を増大させることになるところ、前記認定事実の本件保険契約締結に至る経緯からすれば、原告が本件保険契約を締結したのは相続税対策にあることは明らかであり、また、そのことが被告新谷や被告荒に表示されていたことも明らかであるから、原告の認識において、右のような問題点につき誤信があったかどうかを、まず検討すべきである。
(二) そこで検討するのに、前記認定事実7によれば、原告は、被告新谷から、変額保険の運用は株式や公債への投資によってなされ、その利率は変動するから解約返戻金が支払保険料を下回るおそれがあること自体については、ひととおりの説明は受けている。したがって、原告は、特別勘定の運用利率は変動することや解約返戻金が元本割れする危険があることは認識していたというべきであって、原告が変額保険が常に九パーセント以上で運用されると誤信したとは認めるに足りない。
(三) 次に、被告新谷が原告に示したシミュレーションは、前記認定事実6、(七)のとおり、いずれも運用利率が借入利率を上回り、本件保険契約が相続税対策として効果があることを示すものであったが、原告は、前項のとおり、運用利率について変動すること自体は理解していたのであり、さらに、前記認定事実7のとおり、原告が、長年久栄を経営し、被告銀行との間で融資を含む取引経験を有していたことからすれば、銀行の貸出金利が変動することをも理解していたと認めるほかないのであって、原告は、被告新谷の示したシミュレーションが、あくまでも本件保険金の運用利率と借入利率の予測を示したものにすぎないものであることは理解していたというべきである。したがって、原告が、本件保険契約において、運用利率が借入利率を常に上回ると誤信していたことも認めるに足りない。
よって、原告に、問題点1、2についての誤信があったということは認めるに足りないというべきである。
(四) さらに、前記認定事実7、(二)、同11からすれば、原告は、本件保険金の保険料の支払のため被告銀行から受けた融資につき、今後も被告銀行から利払のための融資を継続して受けられるものと考えていたことがうかがえるところであるが、原告の前記経歴からすれば、これも、原告が今後も融資を継続して受けられるものと期待していたにすぎなかったとの域を出ず、被告銀行がどのような事態になっても原告に対する融資を継続すると考えていたとまでは推認するには足りないのであって、したがって、原告が、問題点3についての誤信があったとも認めるに足りない。また、右の点は、そもそも、本件保険契約の内容というより、本件各金銭消費貸借契約にかかるものである。
(五) 以上要するに、原告は、本件保険契約が相続税対策として常に有効となるものではなく、却って負債のみが増大する危険性がある契約であることを認識した上で、その危険性についての評価を誤ったというにすぎないのであるから、結局原告の錯誤は認めるに足りない。
2 勧誘時の違法性について(争点2)
(一) 被告新谷の説明義務違反、断定的判断の提供について
(1) 変額保険は、その保険料の一定額が株式、公債等の有価証券で運用され、その運用実績によっては死亡保険金及び解約返戻金が変動するハイリスクハイリターンの商品である。それ故、変額保険を募集する者としては、変額保険に加入しようとする者に対し、変額保険の基本的仕組み、死亡、高度障害の場合の基本保険金が保証されるだけで、保険金及び解約返戻金の保証がないことについて十分に説明する信義則上の義務を負うというべきであるが、逆に、右説明を行えば、それで、最低限の説明義務としては尽くされており、それを前提にして加入した者はその結果について自己責任を負うべきである。
(2) しかしながら、他方、相続税対策を目的として、支払保険料が全額銀行融資によって賄われ、その利息も順次銀行の借入によることが予定された、いわゆる融資一体型変額保険契約の場合、時の経過とともに金利負担が増大することもあり、保険資産の運用実績が借入金利よりも相当高率でなければ、その目的である相続税対策の効果が生じないばかりか、却って保険契約者に単に変額保険を契約させる以上の損失を被らせることになる点で、通常の変額保険契約と異なった危険性をはらんでいる。確かに、保険金又は解約返戻金が借入元利金を上回るか否かは、保険料の運用実績に直接関係する有価証券等の株価あるいは借入金の金利の推移や、借入利率の推移、あるいは、保険事故発生時期の予測といった極めて複雑な要因によって決まる上、仮にこれらについての何らかの数値予測が可能であったとしても、そもそも、保険事故発生時にも現在の相続税算定の枠組みが維持されているとの前提がなければ、算定したところで何らの意味のないものとなってしまうのであるから、融資一体型変額保険契約を勧誘する際に、逐一具体的な算定根拠を示して相続税対策の有効性を説明しなければならないとする理由はないというべきである。また、そもそも、変額保険特別勘定の運用利率に変動があり得ることを理解しておれば、運用利率が借入利率を下回る危険性があることをも理解し得るともいえる。しかしながら、かかる事情を考慮に入れたとしても、勧誘者としては、前記のようなリスクを十分心得た上で、勧誘に臨むべきであって、当該勧誘の具体的場面、勧誘を受ける者の年齢、属性、理解度等、具体的な状況に応じて、勧誘を受ける者が少なくとも、かかる危険性について誤った判断に至らないように説明を尽くす義務を信義則上負っているものといわねばならない。
(3) 以上の見地から、被告新谷の勧誘態様について検討するに、確かに、前記認定事実6、(一)、(二)、(四)によれば、被告新谷は、運用利率九パーセント、四・五パーセント、〇パーセントと想定した上で、各々の解約返戻金、保険金をシミュレートしたパンフレットや、設計書、契約のしおりを交付し、口頭でも、解約返戻金や保険金は元本保証されない旨の説明を行ったのであるから、被告新谷は、変額保険の最低限基本的なリスク説明は尽くしたものといわざるをえない。
(4) しかしながら、前記認定事実6、(二)、(四)ないし(七)、特に、被告新谷は当初から融資一体型変額保険が相続税対策に有効であることを強調して勧誘を行ったこと、本件保険契約の相続税対策としての有利性を判断するための唯一の資料であるシミュレーションにおいて、運用利率が借入利率を上回り、相続税対策として有効性を示すもののみを交付していたことに加え、さらに契約締結後に被告新谷が原告の息子と交わした、契約当時についての会話の内容(甲二四号証)とをあわせ考えれば、被告新谷は、勧誘当時、さしたる根拠もなく、運用利率は当面九パーセント程度で推移するだろうとの甘い見通しの下、融資一体型変額保険の勧誘経験に乏しいことも相まって、前述の融資一体型変額保険契約の固有のリスクについては何ら思いを致すことなく、却って、融資一体型変額保険は、自己の資金を取り崩すことなく、銀行借入を行うだけで相続税納税資金準備と相続税評価額引き下げが可能となる画期的な商品であることを全面的に強調して、原告に対する勧誘を行ったものと認めるほかない。
(5) 特に、本件保険契約は融資一体型変額保険であり、右変額保険は、前記認定事実5、(五)に記載した問題点をはらんだものである。また、前記認定事実7、(二)のとおり、被告新谷自身、原告の関心も、利払についても新たに融資を受けられるか否かに最も強い関心を示していることを知っていたことからすれば、自らがシミュレーションに記載した銀行の貸出利率が被告保険会社の運用利率をどれだけ下回るか、被告銀行が利払につき追加融資をするか否かが、原告において本件保険契約への加入を判断するにつき、最も重要な要素であることは容易に理解し得たと推認できる。しかるに、被告新谷は、終始、自己資金が利払も含めて不要である旨を強調しながら、自らが交付したシミュレーションに記載した運用利率や銀行の貸出利率については、被告保険会社の運用利率の実績や被告銀行の貸出利率の実績について調査することなく、前記認定事実6、(五)のとおり、さしたる根拠もないと自認する数字を漫然と記載し、さらに、前記認定事実6、(六)のとおり、被告荒から、「銀行の貸出の金利も安くするから」などと言われると、それに従って、銀行の貸出金利を運用利率より低い利率に設定した書面を作成して原告に交付する等、原告が、本件保険契約加入するか否かを判断するにつき、最も関心を払ったであろう重要な資料を、極めて杜撰な方法で作成し、原告の勧誘に供していたものというほかなく、かつ、その書面の記載自体は、断定的というべきである。
(6) してみると、被告新谷の一連の勧誘内容は、会社経営者としてそれなりの経済判断はできたであろう原告の属性を考慮に入れたとしても、同人の本件変額保険契約を締結するか否かの判断を誤らせるおそれのあるものというほかなく、被告新谷の勧誘は変額保険を勧誘する者として負うべき説明義務に違反し、違法であるというべきである。これに対しては、融資の結果もたらされるリスクについては銀行が説明すべきであり保険会社としてはそこまで説明する必要はないという反論も考えられるが、このように当初から「セットプラン」をうたい文句にして融資一体型変額保険を勧誘した以上、被告新谷は単に変額保険のリスクを説明するだけでは足りず、融資一体型変額保険固有のリスクについても説明すること免れないというべきである。したがって右の被告新谷の勧誘は原告に対する不法行為を構成する。
(二) 被告荒の説明義務違反、断定的判断の提供について
(1) 本件保険契約のような融資一体型変額保険にあっても、保険契約と融資契約は法律上別個のものであり、また、募取法九条が、登録募集人以外の保険の募集を禁止し、同法二条三項で、右にいう「募集」とは、「保険契約の締結の代理又は媒介」と規定し、同条一項で、「生命保険募集人」とは、保険会社のために生命保険契約の締結の媒介をなす者と規定していることからすれば、一般には、銀行は、当該融資契約が、変額保険の保険料の支払に充てるためであることを知っていた場合であっても、それだけでは、直ちに、顧客が保険会社との間で締結しようとしている変額保険契約につき、当該顧客に対し、当該変額保険の内容、リスク等につき積極的に説明すべき義務を負うことはないというべきである。
しかしながら、当該銀行が、当該顧客において変額保険に興味を示していることを察知して、これを保険会社に紹介し、当該保険会社の勧誘員と共同して当該顧客に対し、変額保険の契約とその保険料支払のための融資を積極的に勧誘し、あるいは勧誘員に対し勧誘のためのアドバイスをするなどの関与を積極的に行った場合には、その過程で、保険会社の勧誘員の説明内容を正して補足させ、あるいは、自らそれを補足して、当該顧客に誤解が生じないよう是正すべき信義則上の説明義務を負うというべきであり、このような義務を銀行に課したとしても、変額保険への加入を顧客に促すことにはならず、顧客保護を目的とした前記募取法の趣旨にも反しないと解される。
(2) そこで、本件について、原告が本件保険契約を締結するに至る過程で、被告荒の果たした役割をみるに、以下のとおり、原告に本件保険契約の勧誘するにあたって、被告荒は、主導的ともいうべき重要な役割を果たしたと認めることができる。
ア まず、前記認定事実2のとおり、被告荒は、原告が相続税対策としての保険加入に興味を持っていることを察知し、原告に対し、自ら相続税対策によい商品があるから個別に説明したい旨伝えて船場支店に呼び出す一方、日頃から船場支店に出入りしていた被告新谷に、「相続税対策に関心を持っている社長さんがいるから来てほしい。」などと言って、船場支店で原告と被告新谷を引き合わせている。なお、当時、被告荒は変額保険のことを勉強し、その相続税対策の効果についても知悉していたこと(被告荒本人)からすれば、被告荒は、原告及び被告新谷を船場支店に呼び出した時点において、既に原告に対し融資一体型変額保険を勧めることを頭に描いていたと推認することができる。
イ 次に、前記認定事実3のとおり、被告荒は、船場支店を原告と被告新谷の交渉の場として提供した上、原告に対し、「今のうちから相続税対策は考えておかねばならない」、「相続税対策には、変額保険が有効である」などと、変額保険への加入を勧める一方、被告新谷には、原告の資産の評価額が約三〇億円であることなどの情報を提供した。
ウ その後も、前記認定事実4のとおり、被告荒は、原告と被告新谷との交渉の場として五、六回程度、船場支店の応接室を提供したばかりか、自らも、その交渉の場に出席し、さらに、船場支店の自分のデスクのそばで、被告新谷と今後の原告との交渉方針について検討することもあった。その際、被告荒は、本件は融資一体型変額保険であって被告銀行からの融資がなければ、とても原告に勧めることができない案件であることを気にかける被告新谷に対し、五億でもー〇億でも融資できる態勢にある旨述べて安心させ(認定事実6、(三))、あるいは、被告新谷に対し、具体的なシミュレーションを作成するように指示したり、運用利率を九パーセントよりも低く設定し、かつ、銀行の貸出利率も下げたプランを作成するよう指示し(認定事実6、(六))、被告新谷にあっては、原告に提示した被告会社の運用利率や銀行の貸出利率については、根拠があって示したものではなく(認定事実6、(五))、銀行の貸出利率については、原告と被告銀行との話し合いが決まっていないんだなとの認識しかないまま、被告荒の指示どおりのシミュレーションを作成して、原告の勧誘にあたる結果となった(被告新谷〔平成一二年三月一日<二八ないし三〇ページ>〕)。
なお、被告荒は、その本人尋問及び被告新谷の本人尋問終了後、陳述書(丙四号証)を提出し、記憶ははっきりしないが、仮にこのようなシミュレーションの作成を被告新谷に指示していたとしたら、それは被告荒自身が融資について検討するためのものであり、原告に説明するためのものではない、と弁解している。原告に対する融資についての返済原資となる保険金ないし解約返戻金がどうなるかを知りたかったというのである。しかし、被告荒は、本人尋問においては、ダイヤモンド信用保証の保証と不動産担保があったからこそ原告に融資したのだと供述しており、右の陳述書の記載はこれと矛盾する。それに、被告銀行の立場からすれば、第一次的な関心は運用利率であるはずであり、わざわざ相続税対策の効果についてまでいちいちシミュレーションをする必要性は認められない。したがって被告荒の右陳述は信用することができない。
エ また、原告の関心は、被告新谷が供述するように、本件保険が自己資金の用意なく加入でき、そのため、被告銀行が利払についても追加融資に応じてくれることにあったところ、被告荒は、原告に対し、借入金の利息についても被告銀行が面倒をみるから心配はいらないと言明していた(認定事実7、(二))。
(3) 以上のことからすれば、被告荒は、原告に対する変額保険の勧誘につき、自ら原告に対して今後の融資について楽観的な見通しを述べたり、被告新谷に対しては積極的にアドバイスを与える等、終始、主導的な立場でその勧誘行為に関与していたものであって、このように主導的な関与をした以上、被告荒は、前記(1) のとおり、原告に対し本件保険契約の保険料に充てる融資を予定している被告銀行の銀行員として、被告新谷のシミュレーションの内容を補足させるべき、あるいは、自ら原告に将来にわたる貸出利率や追加融資の不確定性を補足して説明すべき信義則上の義務負っていたものというべきである。ところが、被告荒は、被告新谷が原告に提示したシミュレーションについて、被告銀行の貸出利率が常に被告保険会社の運用利率より低く推移するわけではないこと、被告新谷が勧める融資一体型変額保険が、自己資金が不要と確定したものではなく、運用利率の低下による解約返戻金の目減り、利払の長期化や担保となる資産の評価減などにより、被告銀行において利払の追加融資に応じられない場合もあることなど、前記認定事実5、(五)記載のような融資一体型変額保険の問題点について、銀行員の立場から原告にアドバイスし、あるいは、被告新谷の勧誘方法を是正させることは容易にできたと推認されるにもかかわらず、これをせずに、前記のような態様で被告新谷の勧誘に関与し続けたというのであって、結局、被告荒の被告新谷の勧誘に対する関与及び右不作為は、原告に対する前記説明義務に違反した違法な行為であって、被告新谷の前記違法な勧誘とあいまって、原告に対する共同不法行為を構成するといわざるをえない。
(三) 被告らの責任
以上によれば、被告新谷及び被告荒は共同不法行為者として、被告保険会社及び被告銀行はそれぞれの使用者として、原告に対し、それぞれ不法行為に基づく損害賠償義務を負う。
3 損害額について(争点3)
被告らの不法行為により、原告は以下の損害を被ったものと認められる。
(一) 支払保険料から解約返戻金を控除した額 一億五八〇三万四二六二円(争いがない。)
(二) 原告が借入金の利息として被告銀行に支払った額 一億九八九五万七六六七円
平成二年一二月三一日付でなされた二〇〇〇万円の貸付(別紙金銭消費貸借契約目録三)は、久栄の営業資金等に流用されたことが認められるので(弁論の全趣旨)、本件保険契約とは直接の関係がなく、損害と認めることはできない。
(三) 本件消費貸借契約書作成のための印紙代 一二万円
(四) 原告が被告銀行からの融資についての保証を委託するためにダイヤモンド信用保証に支払った借入保証料 七一九万八四三〇円
(五) 小計
(1) 被告らそれぞれに対する請求分 三億五七一一万一九二九円
(2) 被告銀行のみに対する追加請求分 七一九万八四三〇円
(六) 過失相殺
前記認定のとおり、被告新谷は、運用利率が九パーセントとなるであろうとの甘い見通しの下、融資一体型変額保険契約の危険性に思いを致すことなく、右変額保険契約が相続税対策として有効であることを全面的に強調してこれを勧誘し、被告荒はこれに加担していたというべきであるが、他方、被告新谷は、変額保険自体の基本的な仕組みのみならず、相続税対策としての融資一体型変額保険の仕組みはひととおり原告に説明していたのであり、原告が、契約当時、久栄ほか名張市の店舗二軒を構え、銀行取引の豊富な事業家であること、また、その頻度はともかくとして、株取引の経験を有していたこと(原告本人)、さらには、原告は、運用利率がマイナスに落ち込んだことを知りながら、被告新谷らに対して、何らの異議を申し述べることもなかった等の事情にかんがみれば、原告は、経済情勢如何によれば、運用利率が変動し、金利を下回る可能性があることを抽象的には認識していたというべきであるから、被告新谷の右勧誘によって、変額保険契約を締結するに至った原告には、相当の過失があるというべきである。そこで、原告に生じた損害について、七割の過失相殺をするのが相当であると判断する。
よって、被告らそれぞれに対する請求分は合計一億七一三万三五七八円(一円未満切り捨て)であり、被告銀行のみに対する追加請求分は二一五万九五二九円である。
(七) 弁護士費用
弁護士費用は、本件事案にかんがみ、被告らに対する請求分についてはその認容額の三パーセントにあたる三二一万四〇〇七円(一円未満は切り捨て)、被告銀行のみに対する追加請求分については、その認容額の五パーセントにあたる一〇万七九七六円(一円未満切り捨て)を損害として、認めるべきである。
(八) 合計
(1) 被告らそれぞれに対する請求分の合計 一億一〇三四万七五八五円
(2) 被告銀行のみに対する追加請求分 二二六万七五〇五円
四 結論
原告の錯誤無効の主張は認められないので、被告保険会社に対する不当利得返還請求はいずれも理由がないし、原告の被告銀行に対する別紙金銭消費貸借契約に基づく元本債務はすべて現存する。しかし、原告は被告新谷及び被告荒の違法な勧誘によって本件保険契約、金銭消費貸借契約、保証委託契約を締結したと認められるので、被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求は前記損害額の限度で理由がある。
(裁判長裁判官 岩倉広修 裁判官 倉地康弘 裁判官 秋田智子)
別紙<省略>